公立大学法人大阪市立大学
Facebook Twitter Instagram YouTube
パーソナルツール
新着情報

納豆菌摂取で、グラム陽性細菌感染に対する抵抗性が向上

プレスリリースはこちらから

本研究のポイント

◇納豆菌を線虫に与えると、食中毒菌である黄色ブドウ球菌などのグラム陽性細菌1に対する抵抗性が強くなることが明らかに
◇納豆菌摂取により、グラム陽性細菌に対する抵抗性を担う遺伝子群の発現が選択的に上昇


1 グラム陽性細菌…グラム染色で分類される細菌。黄色ブドウ球菌や腸球菌、リステリア菌などが挙げられる。

概要

 大阪市立大学大学院生活科学研究科の片山莉那さん(前期博士課程2020年度修了)、松本優美さん(前期博士課程2019年度修了)、西川禎一名誉教授(大阪市立大学)、中台(鹿毛)枝里子教授らの研究グループは、線虫C.elegans2に、納豆菌を摂取させたところ、黄色ブドウ球菌などをはじめとするグラム陽性細菌に対する抵抗性が強くなることを明らかにしました。また、納豆菌を摂取させることで自然免疫系、特にグラム陽性細菌に対する抵抗性を担う遺伝子群の発現が選択的に上昇していることもわかりました。本研究は、納豆菌による宿主免疫調節の仕組みの一端を明らかにするものであり、納豆菌の抗グラム陽性細菌プロバイオティクスとしての可能性を示唆しています。ヒトへの応用が可能になれば、納豆を食べることで細菌感染症の予防や病態緩和につながる可能性も期待できます。

 本研究の成果は、『Journal of Applied Microbiology』(6月22日)にオンライン掲載される予定です。


2 線虫Celegans…体長約1 mmと小さいながらも動物としての基本的な組織?器官や自然免疫系を有しており、ヒト遺伝子の約60~70%を共通して持つ。

研究者からのコメント

nakadaisensei-1
片山 莉那 さん

先輩方から大切に引き継がれてきた納豆菌の研究が1つ実を結び、大変嬉しく思います。納豆菌のプロバイオティクスとしての効果は、きっとまだまだ隠されているのではと思います。線虫を用いたこの研究が、納豆菌や他のプロバイオティクス研究の前進に、少しでも寄与することが出来れば幸いです。

?

研究の背景

 細菌感染症は、抵抗力の低い乳幼児や高齢者にとっては致命的となり得るため、その予防や病態緩和の手法確立は喫緊の課題となっています。医薬品はもとより、より身近で安価な食品を介した予防や病態緩和の方法論、施策が望まれています。
 そこで本研究では、日本の代表的な発酵食品の一つである納豆の製造に古くから用いられている納豆菌を線虫に摂取させ、グラム陽性細菌?陰性細菌に対する抵抗性を調べました。

研究内容

? まず、幼虫期の線虫に標準餌(非病原性大腸菌)または納豆菌を与え、成虫になった段階でグラム陽性細菌である黄色ブドウ球菌に感染させました。その結果、納豆菌を与えた群の線虫は標準餌を与えた群に比べて有意に長く生存することがわかりました(図1)。同じくグラム陽性細菌である腸球菌感染の場合にも同様の現象が起こりました。一方、グラム陰性細菌であるサルモネラ菌感染においては、納豆菌摂取による生存期間の延伸はみられませんでした。
 次に、線虫の遺伝子発現変動を調べたところ、納豆菌摂取により、自然免疫応答に関連する遺伝子、特にグラム陽性細菌に対する生体防御に関わる遺伝子の発現が上昇していました。また、納豆菌が直接的にグラム陽性細菌の増殖を抑制するのではないこともわかりました。
 これらのことから、納豆菌摂取により宿主(線虫)の自然免疫系が調節され、グラム陽性細菌に対する抵抗性が向上する可能性が高いことが明らかとなりました(図2)。

nakadaisensei-2

nakadaisensei-3

今後の展開

 本研究は納豆菌が線虫のグラム陽性細菌に対する抵抗性を上昇させることを明らかにしたものです。今後、哺乳動物やヒトに同様の作用を証明することができれば、実際に納豆を摂取することで細菌感染症の予防や病態緩和に寄与できる可能性があります。

掲載誌情報

【雑誌名】 Journal of Applied Microbiology
【論文名】Bacillus subtilis var. natto increases the resistance of Caenorhabditis elegans to gram-positive bacteria
【著 者】Rina Katayama, Yuumi Matsumoto, Yukina Higashi, Simo Sun, Honoka Sasao, Yoshihiko Tanimoto, Yoshikazu Nishikawa, and Eriko Kage-Nakadai
【U R L】https://doi.org/10.1111/jam.15156

資金

 本研究は科学研究費助成事業基盤研究(C)(18K10998)の一環として実施しました。