公立大学法人大阪市立大学
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Wi-Fi等のあらゆる周波数の電磁波を用いて蓄電できる可能性を示唆

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この研究発表は下記のメディアで紹介されました。
◆8/19? 電気新聞
◆8/19? 日刊工業新聞

本研究のポイント

?強磁性共鳴※1によって生じる起電力(電流を生じさせる電位の差?電圧)を利用して蓄電することに成功。

?強磁性共鳴状態の超薄膜磁石(以下、磁性膜)を20個つないだ場合、約1カ月で乾電池1個(1.5ボルト)程度の蓄電が可能に。

?身の回りにあるスマートフォンやPCなどのあらゆる周波数の電磁波を利用して、安定して蓄電できる可能性を示唆。

※1 強磁性共鳴…磁性膜に電磁波と静磁界を加えることにより、膜内部の電子磁石が一斉に電磁波の周波数と同じ周波数で歳差運動(回転しているコマの首振り運動と同様の運動)をする状態

概要

 大阪市立大学大学院 工学研究科の仕幸 英治教授らの研究グループは、薄さが数十ナノメートルの磁性膜を使用した、電磁波から電気エネルギーへの変換現象により発生する電圧を利用して蓄電することに成功しました。

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 これまでの先行研究において、強磁性共鳴下では磁性膜にマイクロボルト程度の電圧が生じることが明らかにされていました。そこで本研究では、この起電力を活用し、鉄-ニッケル合金および鉄-コバルト合金という2種類の膜材料を用いて蓄電を試みました。結果、膜材料の種類により蓄電が可能な場合と難しい場合があり、発熱をしても磁石の性能を失いにくい膜材料のほうが安定した蓄電が可能であることが明らかになりました。
 強磁性共鳴による起電力は原理的に全ての周波数の電磁波において生成可能なため、本研究成果を活用することで身の回りのあらゆる周波数の電磁波から蓄電できる可能性が示されました。
 本研究成果は日本時間2021年8月11日(火)に国際学術誌「AIP Advances」にオンライン掲載されました。

研究者からのコメント

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仕幸 英治教授

 強磁性共鳴は70年以上前に発見されましたが、強磁性共鳴下の磁性膜における起電力は近年のナノテクノロジーの進化によって超薄膜が作られるようになった恩恵により、数年前に発見された現象です。本研究により、エネルギー獲得技術として利用するための材料選択の指針を明らかにできました。まだ多くの課題がありますが、原理的に全ての周波数の電磁波で発電可能な技術のため、実用化したい所存です。

1.背景

 資源に乏しい我が国では、環境に負担をかけずに限りある資源を有効活用する技術が求められます。近年、地球上に存在する微小エネルギーを集め、それらを新たなエネルギー資源として利用する「エネルギーハーベスティング」が注目されています。この技術は発電所とは異なり、エネルギーシステム当りで得られる電気量は大きくはないものの、利用方法次第では電子デバイスを動かすには十分なポテンシャルを有しており、光や熱、振動、電磁場およびそれらの関連現象を使うさまざまな開発が進行しています。
 本研究グループでは、磁性膜の強磁性共鳴現象を直接利用するエネルギーハーベスティングに着目しています。これまでに強磁性共鳴状態の磁性膜にマイクロボルト程度の電圧が生じること、およびその起電力の起源の解明が行われました。本研究ではこの起電力生成現象による蓄電を試み、エネルギーハーベスティング技術としての可能性について実証実験を行いました。

2.研究内容

 本研究では強磁性共鳴下の磁性膜に発生する起電力現象そのものに着目し、起電力の起源は重要視せずに、蓄電ができるかどうかの点について検証しました。
 磁性膜材料として鉄-ニッケル合金(Ni80Fe20)と鉄-コバルト合金(Co50Fe50)の2種類を用いました。また、電磁波の照射にはWi-Fiなどの環境電磁波ではなく、実験室環境で扱いやすい電子スピン共鳴(ESR)装置を、静磁界にはESR装置の電磁石を使用しました。
 最初に、蓄電実験用の磁性膜自身から、強磁性共鳴下で発電する(起電力が生じる)ことを確認しました。図1(a)および1(b)はNi80Fe20膜の強磁性共鳴特性および強磁性共鳴下の起電力を、図1(c)および1(d)はCo50Fe50膜の強磁性共鳴特性および起電力を表します。図1(a)および1(c)より、どちらの磁性膜においても強磁性共鳴が生じていることがわかります。また、図1(b)および1(d)より、いずれの磁性膜においても強磁性共鳴下で起電力が生じており、その最大瞬時電圧(グラフのピーク電圧)が、Ni80Fe20膜で28マイクロボルト程度、Co50Fe50膜の場合は6マイクロボルト程度であることがわかりました。

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図1 使用した磁性膜の強磁性共鳴特性および起電力特性

 
 続いて蓄電に着手しました。膜試料にコンデンサを直接、導線を介して接続しました(図2)。静磁界の大きさを固定し、強磁性共鳴状態を一定時間維持し、蓄電を試みました。今回は共鳴開始から所定の時間が経過した後、スイッチを開いて蓄電を止め、その後、いわゆるRC直列回路※2を使って放電を行い、その放電特性から実際にコンデンサに蓄えられていた電気量を電圧値で比較評価しました。
※2 RC直列回路…抵抗体RとコンデンサCを電流に対して直列につないだ回路

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図2 蓄電および放電回路

 図3は30分間強磁性共鳴を続けた後の放電特性を示しています。いずれの磁性膜においてもある程度の蓄電に成功しました。

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? 図3 30分間充電後の放電特性。●がNi80Fe20膜、▲がCo50Fe50膜のデータ


 しかしながら、Ni80Fe20膜の場合、図4(a)に示すように蓄電時間(充電時間あるいは共鳴継続時間)が変わっても蓄電量が増えない(蓄電がストップする)傾向を示しました。一方、Co50Fe50膜の場合、図4(b)に示すように蓄電量は共鳴時間に比例して増加し、蓄電が続く傾向が観測できました。これらは薄膜を作り直しても同様の結果となり、明確な再現性がありました。
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  図4 蓄電量(蓄電圧)の強磁性共鳴時間依存性
(a) Ni80Fe20膜の場合、飽和する傾向(蓄電がストップする)がある。
(b) Co50Fe50膜の場合、蓄電量は共鳴時間に比例する傾向(継続した蓄電が可能となる様子)が見られる。

  膜の材料によって蓄電特性が異なる原因を調べた結果、材料の温度に対する磁気特性の違いによると考えられました。Ni80Fe20膜とCo50Fe50膜との間では、強磁性(磁石材料としての性質)を示す磁気相転移温度※3が異なり、Ni80Fe20膜の相転移温度はCo50Fe50膜よりも低いです。強磁性共鳴状態の薄膜は加熱されるので、磁気相転移温度が低いNi80Fe20膜の場合、たとえ強磁性を示す温度範囲でも、磁石として性能が室温付近よりも非常に劣ります。この場合、最初に設定した静磁界の大きさ、電磁波の周波数などの強磁性共鳴の条件から大きく外れることになり、強磁性共鳴を維持できなくなってしまうことがわかりました。一方、磁気相転移温度がNi80Fe20膜よりも高いCo50Fe50膜では加熱されても磁石材料としての性能があまり変わらない程度の温度変化だったため、強磁性共鳴を維持することができ、その結果、良い蓄電特性を得ることができました。
※3 磁気相転移温度…この温度を境に材料の磁気特性が変わる温度。一般的には磁気相転移温度よりも低温側で強磁性となる。

3.今後の展開

 本研究では材料選択の立場から効率的な蓄電条件を明確にすることができました。原理的には強磁性共鳴条件を満たせばあらゆる周波数の電磁波で発電できるため、例えば共鳴条件が異なる磁性膜の接続により、あらゆる周波数の電磁波から同時にエネルギーを獲得することを目指します。
 また、今回は実験室という特殊環境での試みであり、電磁石による一様な静磁界と、ESR装置による高密度の電磁波を利用したため、エネルギーを獲得するために、それ以上のエネルギーを使用しました。実用化に向け、電磁石を使わずに永久磁石を使って広範囲に一様な静磁界を作る技術や環境電磁波を効率良く捉える技術などの開発を進めています。

4.資金情報

 本研究の一部は村田学術振興財団およびマツダ財団による助成を受けて実施されました。

掲載誌情報

【発表雑誌】AIP Advances (Regular Article)
【論文名】An energy harvesting technology controlled by ferromagnetic resonance
【著者】Yuta Nogi, Yoshio Teki, and Eiji Shikoh
【論文URL】https://doi.org/10.1063/5.0056724